本当に二人組でした

貨物系職業運転手、神沢です。


本日はお勤め中、自分宛に面会などをいただきまして、
男性の二人組です。
お一人は五十代くらいでしょうか、
もうお一人は自分と同じくらい、三十代くらいかなあ。


自己紹介に桜の代紋が入った手帳を見せていただきましたよ。
……何かしましたか? 自分。


先輩さんであろう方が主に自分と会話。
後輩さんであろう方が書記。



「某月某日にXXさんという方宛ての荷物を運びませんでしたか?」
ああ、そういうことですか。
「XXさん……ちょっと聞き覚えがないのですが」
「たしかにXXさんなのですが」
「XXさん、XXさん……」
「XXさんです」
「あの、差し支えなければですが……番地がわかれば」
「番地? そんな数字でなにかわかるのですか?」訝しげながら先輩さんは後輩さんに一瞥。「123の4です」後輩さん。
「某さんですね」自分。
「某さん! ……よくわかりますねえ」先輩さん。


自分たち配達員という職業は「個人名」ではなく「地理情報」を憶えてお勤めします。名前より番地の方がすぐに情報が出てくるのです。


「XXさんは、たしか某さんの奥さんだったかと」
「そうです」
内縁の妻ってヤツですね。


ちなみに職業倫理上こんな機会でもなければ話しませんが、
私たち配達員は世間一般の人たちが想像している以上にお客様の詳細な個人情報を持っています。
どんな世界にも聖人と愚か者は一定の割合で存在しますので一部の愚か者の悪用により悩まされることがあるのも事実です。
たいがいの配達員は世間一般のみなさまと同じ職業倫理観を持ち合わせています。見聞きはしてもしゃべりはしません。桜の代紋から問い合わせが来るようなことでもない限りその口は強固に閉じられています。
そして今回いまここです。


「某月某日にXXさんが神沢さんに電話を掛けた記録が残っています。憶えていることを教えてください」
「(略)です」
「配達した品について教えてください」
「(略)です」
「もっとkwsk」
「季節の挨拶品はお中元の時期です。私たちも多くの物量を抱えて一つ一つまで詳細に憶えていることができていないのが実情です」
「……そうですか」


これは本当に。
配達する立場の人間からすると、
・日時指定はあるのか
・割れ物なのか生ものなのか
・常温なのか温度指定があるのか
このくらいしか気にしません。
今はちょっと時期を過ぎましたが少し前までは桃やサクランボなどは要注意貨物でした。缶ビールの詰め合わせなら平べったい箱を縦に積めますが柔らかい生ものでそれをやったら痛みます。アイスやケーキなんて本当に配達屋泣かせです。到着当日に配達完了が原則ですから。この夏休みどこに遊びにっちゃったのー! 早く帰ってきてー!



「某さんについてはご存知ですか?」
「はい。地域を担当する際に注意を受けていました」
右手人差し指で右頬に一筋描き「こんな方だと?」
「ええ。お届け品はご挨拶品だと『出し人さん』や『受け人さん』の『組織』や『役職』が書かれていることが多いので実際に知ってました」



「某さんに会ったことはありますか?」
「はい」
「どんな人でしたか?」
「どこにでもいる……というよりむしろ珍しいくらい人柄のいい方でした。『ああいう世界』にいる方はご在宅だと『ああいう世界』とは別人なんだなあという印象です」
「(人相や特徴を説明し)こういう方ですよね?」
「ええ、そうですね」微笑み。


「当日XXさんと通話したときのことを教えてください」
「(略)です」
「もっとkwsk」
「すいません、憶えていないのです。忙しい時期だったのです」
「そうですか。最近は在宅でしたか?」
「見てないですね。(略) 車がなかったので不在だったと判断します」
「車種や色は憶えていますか? ナンバーは?」
「〜色の〜です ナンバーまでは」
「(略)?」
「(略)です」






こんなお話を昼下がりに数十分。


桜の代紋を戴いた世界の方からご指名でインタビューなんて生まれて初めてでした。びっくりしましたよ本当に。



お勤め中は午前中、支給されてた携帯電話に着電して
「○○署のAと申します。神沢さんですね?」
これ、驚かない方が不自然なんじゃないかと。


『訊きたいことがあるのでお会いして伺いたいのです、お時間の都合はいかがですか?』
ものすごい丁寧で。
しかも○○署って、自分がその時いた場所かたかなり遠い場所なんですよ。




受けたインタビューのあとに
「なにが起こってるのか知りたいけどそういうのは聞かない方がいいんですよね?」
と申し上げたら苦笑いしてましたが。お二人。





しかし本当に二人組なんですね。
年配さんと若手さん。
今回年配さんとお話をさせていただいたのですが、
なにも言わずじっと書記をしていた若手さんが印象的でした。


中肉中背は色白で、ほっぺたのあたりからするとお菓子とか大好きなのかなあという印象。おしゃれにも縁がなさそう。この系統な方はよく知ってます。ぱっと見な第一印象では。


……でも、
四肢の肉付きが違うんですよ太いんですよ。
たとえるならば……多分たとえてないのだと思うのですが、
柔道は二段三段あたりの現役さんに見られる肉の付きかたです。
自分も一応帯は戴いていますのでそのあたりは経験上というか。


自分は治安業界関係のオタではないので詳しいコトはわからないのですが、



きっと大変なんだろうなあ。


そう思うのです。



うん。







ちなみに運輸業界の本日は結構辛かったです。暑かったので。
首まわりを冷やすとアタマに登る血が冷えるらしいので車載冷凍庫で冷やしたペットボトルを定期的に首筋にあてて疲労からの睡魔なのか熱気からのだるさなのかわからないものを掻き消しつつお勤めしてました。



オタネタトーク
やりたいよ!?
でも!
この夏を生き延びることが最優先事項だよ!


張り切って元気で行きまっしょい!


……こんな自分とは別に空調の効きすぎた空間で冷房病に罹患する人もいるのですから世の中とは不思議なものです。


うん。