いわないきもち つたえるきもち


本日も実用に役立ちそうにないネタ知識。神沢です。



からころも
きつつなれにし
つましあれば
はるばるきぬる
たびをしぞおもう


こんなウタがありまして。
行頭一文字を拾って『カキツバタ』と別名もある歌です。


旅人が自分の旅路について詠んだ歌とされています。


『唐衣』旅人が着ている服。
『着つつ』着ていて
『慣れにし』体に馴染んできた、というかくたびれてきてしまいました。
『褄しあれば』『褄(つま)』というのは服の襟とか袖とかのことです。
『張る張る』ぱりっとした状態で
『着ぬる』着ている
『旅をしぞ思う』旅をふと思うのです。



「この長旅で自分が着ている服もくたびれてきてしまった。ああ、ぱりっとした、旅を始めた頃のこの服であったらなあ」


という内容なのですが、


この歌にはもう一つ意味が込められていまして。


『からころも』唐衣。里に置いて来た奥さんのコトを例えているんですね。
『来つつ』来つつは旅のことなのか、旅人の人生のことなのか。
『慣れにし』いつも一緒(慣れにし)にいた
『妻しあれば』妻、奥さん。
『はるばる来ぬる』はるばるやって来たこの地で
『旅をしぞ思う』この旅を続けながら彼女のことを思い出すのです。



「いつも一緒にいてくれた自分の奥さん。会いたいなあ……」
という解釈があります。


字面の表面だけ追えばただ単に旅人が疲れて愚痴を言っているだけなのですが、
その中にそっと挟み込まれている旅人の心情を思うと、


いたわってあげたいような、
なぐさめてあげたいような、
「奥さん大好きなんじゃん、ひゅーひゅー」とはやし立てたいような。


昔の人は歌ひとつにも
そのものずばりな心情吐露をしなかったのですね。
正直「会いたい」大連発な近頃の歌謡曲とはかなりの差があります。


旅人が旅をしているのは理由があるからなのですが、
この歌ではその旅がいったい何なのかは説明されていません。
むしろ要らないんです。
旅人の着用している唐衣、それが大切な舞台装置なワケでして。



愛されてるんですねえ、旅人の奥さん。



なかなかおもしろい歌だと思いませんか?
自分は好きです。







で、
この歌
ほとんどの方がどこかで聞いた覚えがあるかと思います。




では解説。
古典として学校の授業で使われているのです。
在原業平 - Wikipedia
古今和歌集 - Wikipedia


これは……うーん、
あくまで私見ですが、
最初に筆者の名前とか収められている本の名前とか告げちゃうから興味が減っちゃうのではないかと。学校教育。
だって絶対次の中間とか期末に出るじゃないですかそんな単語。
歌の味わい方を知る前にカタログデータだけ渡されてさあ記憶しなさいと言われているようなモノで。
だから古典って好かれないんですよ。
好いてるのは教える立場の先生達だけ。


モノの本質や本当の旨みなんて、
手にする本人がそれに触れて、
そこで感じて味わって、初めて理解できるモノではないかと。



とはいえ自分もおおよそ学校の成績はよくなかったので、
あんまり偉そうはコトは言えないのですけれどもね。


「好き」
「愛してる」
「会いたい」
昔の人はこのような言葉は簡単には口に出さなかったんです。
でも、溢れる気持ちは抑えられないから、
そっと詠む歌に挟み込んだのですね。


なかなかにかわいいというか、
いじらしいじゃないですか。


古典、
好きです。
……そんなに詳しくはないですけれどね。




うん。



【時限追記】
もともとはマツコデラックスさんが西野カナさんの作詞とそれを迎合する女子高生達に対してキレた記事が元ネタです。「会いたい」ばかりを羅列してそこには即物的なモノばかりだ、とかなんとか。うろおぼえではありますが。
マツコデラックスさんが伝えたいのはこのようなコトなのではないのかな、そう思い筆を執らせていただきました。外れていたらゴメンナサイです。



うん。