とある休日の梨農園風景


休日な本日は日中、お世話になっている梨農園さんにお伺いしてきまして。神

沢です。


やはり本職さんのお話をいただけるのは貴重で楽しいのです。
本職さんというか、
実際に梨を育てている方からのお話ですから。



『捻枝(ねんし)』という技術を口伝していただいたり。


「梨の枝って、上に伸びていくから、枝の曲げたい部分にカッターナイフで縦にいくつも裂け目を入れるのさ」
「それを、ねじりながら、枝を曲げていく」
「曲げ終わった後の、カッターで切り込みを入れた部分はビニールテープで巻

くんだよ」
「樹は自分の力でその傷を癒すから。そして伸びた枝はそこで花を結ぶんだ」
「枝を捻って、そうするわけだから、漢字で書くと……なんて説明したらいい

かな」
「『捻る』の『捻(ねん)』に『枝』の『枝(し)』なんですね」
「そうそう」


なるほど。
あの、梨農園で実っている梨。
みんな均一に手に取れる高さで実っているのはそういった術からのモノなので

すね。


「そうやって伸ばした枝も、何年か経つと、収穫が見込めなくなっちゃうから

切っちゃう」


切っちゃうんですかー!
でも、
切ったらそこから病気とか、ばい菌とか、入りませんか?


「ボンド塗る」


ボンド!?


「みんな使ってるような木工用ボンドさ。病気が入らないように薬を混ぜてい

るけれどね」
「昔はペンキでも良かったんだけどね、お役所がペンキはダメって言って、そ

れからみんなボンドさ。要は切り口が外気に触れないようにすればいい」


なるほどですね。
初めて聞きました。


「ペンキの方が楽だったんだけどなあ」


イヤお役所がダメって言うなら仕方ないですし。


その他いろいろ、
専門家さんならではのお話をいろいろといただきまして。


いろいろお話はお伺いしたのですが、
機械にまつわるお話しがおもしろかったです。



「うちも田んぼはやってるんだけど、稲刈りの作業はよそに出すんだ」
「稲刈りの機械あるでしょ」


ああ、コンバインですね。


「アレいくらするか知ってる?」


いえ。


「(略)くらい」


ええっ!?


「買うとまずそこで買うためにお金かかるでしょ? 持つと場所取るでしょ?

 持ってると維持にお金かかるでしょ?」
「だから、うちは機械の要る稲刈りは持ってる人に頼んじゃう」


たしかに。
そうですよねえ。


「持ってる人に稲刈り頼むと掛かるお金は……このくらいの時間で、このくら

い」


はあ、
なるほど。
頼んじゃった方が早いですね。


「うちも機械あるけど、お金かかるんだよねえ」
「この間とか、ほら、そこにあるアレ、拾って来ちゃった」
「そのへんにほったらかしてあったから、コレ使わないんですか? って訊い

たら、使わないって、壊れてるって。もらっていいですか? って訊いたら、

どうぞお好きに、持っていっていいですよって。だからもらってきて直しちゃ

った」


それ……すごくないですか?


「なんのなんの。なんでもやるんですよ。俺たちは」
「20年前の機械ですからって言うんだけれど」
「うちの機械なんて、40年前よ?」
「まだ使ってるんだから」
「でもさあ」
「メーカーも上手ですよ」
「壊れたから部品くれっていったら『ない』っていうの」
「あるかどうかは知らないよ?」
「でも『ない』っていうの」
「だから『新しいのを買ってくれ』って」


(20年モノや40年モノの農機の部品って、確かにメーカー側に管理責任が

ないような気もしますが……聞き続けてみよう)


「メーカーは上手。本当に」
「大きいんじゃなくて、小さなのを勧めてくる」
「理由、わかります?」


(売価、低いからかな……)


「俺ら農家はね、機械は修理して使うから、そのあたり踏んでるの」
「たとえばね?」
「メーカーは100万円の機械を一つ売るより、20万円の機械を五つ売りた

いんですよ」
「機械は使えば壊れるし、それで部品も必要になるから」
「一つの機械の部品より、五つの機械の部品の方が売れるでしょ?」
「だから」
「20万円の機械より100万円の機械の方がその時のもうけにはなるけど」
「あとのことを考えてメーカーは安い機械をたくさん売りたいんですよ」
「メーカーもうまいこと考えてるよねえ!」


破顔一笑




うーん。
理論としてそれはどうなのかと異論のある方もいるやもしれません。
でも、
ものづくりの渦中にある方の言葉にはいつだって真実味がそこにあって。
机上の理論は机上の理論。
天候一つ違えば大切に育てた商品がすぐダメになるわけです。
今日この日もお会いして開口一番、
「いやあ、暑さでキュウリが」
及ばすながら自分も家庭菜園の知識がありますので、
根付く時期ですよね、ハウスってことはしなびました?
「しなびたなんてモンじゃないですよ。あれ、焦げてる」


どんな世界でも第一線は毎日がいつだって本気の本勝負。


茶道の世界では『一期一会』と、
どんなときでもその瞬間は生涯に一度きりなのだから大切にするべきだとの言葉もありますが、
まさに本日の会話はそうであったわけでして。


貴重なお話をいただいて、
楽しかったです。



ありがとうございました。



うん。