とある夜更けの書籍紹介

学生さんはカネがない。しかし社会人になるとひとときのお金はあっても時間がない。大人買いとはチビッコ返りなのでしょうか。神沢です。



本日は手元の書籍の中からいくつかの談義を。




20110104232210
HER ヤマシタトモコ 祥伝社 フィールヤングコミックス



2010年度、このマンガがすごい オンナ編第一位の品ですね。
オトコ編第一位は『進撃の巨人』なのですが、自分がこの場でご案内するとしたらやはりこちらとなります。
フィールヤングコミックスという時点で明らかではあるのですが、女性向けですね。
「女性から見た『女の子の可愛さ』」がテーマになっていまして、
オムニバス形式の全6話となっています。
ヤマシタトモコさんは自分、『ドントクライガール』から入ったのですが、この方は女性向けの作品を描かれる方だなあとその時に感じたこともあり、ひとつ読んでみようと。
感想といたしましては、うーん、女の子ってわかんないですね、というあたりが正直なところかなあと。日々の中での不安、疑問、恐れ。そういった誰もが抱くであろう事柄、こんなことで悩んでいるのは自分だけなんじゃないかという気持ちと、周囲の人間関係。登場人物一人一人の息づかいが伝わってきます。ときにたいしたことでもなかったり、時に深刻だったりもするそれぞれの想い。自分は男性なので「そうですね」とはとても言えないのですが、「そうなんですか」とは感じ取れます。
近い感覚としてはそうですね、
洋服屋さんで大はしゃぎする女子の人イズムと
ホームエンターの工具売り場で大はしゃぎする男子の人イズムの違い、みたいなものでしょうか。
「似たようなスカートばかり並んでるのによく見飽きないね」
「似たようなねじまわしばかり並んでるのによく見飽きないわね」
KTCとMACTOOLとSUNFLAGの違いが女子の人には理解できないのと同様、
男子にも理解できない世界があるものでして。
理解できないからこそ、面白いというところを感じます。



20110104232202
モー・サム・スティング ヤマシタトモコ リブレ出版 ゼロコミックス


おなじヤマシタトモコさんでもこちらは毛色がちょっと変わっていまして。
いわゆるBLと呼ばれるものに近いです。
ですが男性でもぜんぜんいける。
ぜんぜんいけるという言い方もちょっとどうなのか、とは思いますが。


私見なのですが、現在のムーブメントにある『腐女子』その方々の好むBL、
もともとは『ニューウェーブ』と呼ばれる世界から派生した『ユニセックス』が根底にあるのではないかと。
『男性向け』『女性向け』そのどちらでもない傾向、ユニセックス
自分が思い出す作家さんですと『お母さんは刑事』『あねさんは委員長』のこなみ詔子さん、『革命の日』のつだみきよさんなどを思い出します。
最近ですと志村貴子さんの『敷居の住人』がおおむねそれに相当するかなあと。


モー・サム・スティングは男子イズムが至りがちな肉欲での恋愛ではなく、女子イズムは精神面での恋愛感情を描いている感を見受けます。……言葉のやりとりなどはすごいですけれどね。
勃つの濡れるのは脳の受容体(レセプター)に刺激があって、そこからの反応なのですが、ではどのような外的刺激が受容体(レセプター)を刺激するのか。
ヤマシタトモコさんはこのあたりの取り扱いが非常に巧みです。



20110104232145
GAME OVER 水谷フーカ 白泉社 


以前この場で『うのはな三姉妹』の紹介をしたことがあったのですが、
その水谷フーカさんの作品です。
コミックス題名の由来は結婚によって終わる二人の恋の駆け引き……だと推察。
彼女さんがOLで彼氏さんが中学生な時分の出逢いから始まる恋愛物語です。
女性が年上の恋愛模様というのは見たところ少ないながらもいくらかありまして。
小説では江國香織の『Tokyo Tower』山崎ナオコーラの『人のセックスを笑うな』などが挙げられます。……共に映画化されてる事実もありますね。
自分はよく知らないのですが(逃げ口上)女性の中には年下男子との恋愛に抗えぬ甘い蜜を感じる方もおられるようで。ま、えろげの『ろり』を性反転ということですね。
雑誌『楽園』に連載されていたこともあって知古だったのですが、
今回の単行本化にあたって書き下ろしな最終回、
“GAME OVER”な結婚式が舞台となります。
二人は望まず会場から飛び出してしまうのですが、そこでのやりとりがよかったなあと。
連載の『楽園』には納められていなかったので二人の結末がちょっと気に掛かっていたのです。




20110104232134
壬生義士伝 原作・浅田次郎 漫画・ながやす巧 講談社 KCDX


がらりとカラーは変わりまして。壬生義士伝です。
浅田次郎大好きなんですよ。
どうしてこう、だめな人をかっこよく描いてしまうのか。
コミカライズのながやす巧さんは『鉄道員』のコミカライズから好きになりました。
いわゆる新撰組モノです。
新撰組隊士の中で飛び抜けんばかりに学もあるし剣の腕も立つ男、吉村貫一郎
しかしながら彼は守銭奴だった。その彼の生き様を描いた物語です。
映画化もされてますので……というか自分は映画から入ったのでコトの次第は知っているのですが、
この吉村貫一郎、男です。漢じゃありません。漢字の漢じゃなくて田んぼの力で男です。
なぜに守銭奴だったのか、なにゆえ金銭に執着していたのか。
ながやす巧の描く浅田節が全開です。
新撰組はその様相を描かれる時、その立ち位置は善悪さまざまな解釈がありますが、
その時その場にいたのは紛れもなく一人の人間であったのだなあと思い知らされます。
見た目と行状だけでいえば、決してかっこいい人ではないのですが、
吉村貫一郎というこの人物、描かれ方もさまざまですが、
『男ってこういうもんだよな』と、染み入るなにかを感じます。



20110104232048
おねがい神サマ! 守姫武士 芳文社 まんがタイムKRコミックス


またカラーは変わります。
本日のコミックスご案内は撮影順です。次回からもうちょっと考えますすいません。
いわゆるジャケ買いでした。表紙買い? いや帯に。
自分のようなファミコン世代の方なら覚えがあるかも知れません。
たけしの挑戦状』ですよねコレ。
それだけで書店の売り場で吹いてレジに持って行ってしまったという。
しかしながら中身はまったく別物でして。


某有名な百合ラノベです、下地が。作中では『アリマさんがみつめてる』
いやそれガチでアレだとしか思えないのですが。
主人公は黒髪ロングな女の子でして、『祐巳が欲しい祥子』なんですね。
祥子になりたいんだろうけれどあなたそのキャラどう考えても祐巳です、という、
知ってる方なら大笑いな4コマです。
大元のネタを知っていればこそ笑えるネタではあるのですが、
反転させたネタとしての活かせ方には気付けばただただ驚くばかりです。







ここから先は、
ご案内はさせていただきますが、
詳しくは読んでいただきたいのです。



では。



20110104232222
薄命少女 あらい・まりこ 双葉社 アクションコミックス


余命一年と診断された少女のその一年。
淡々とギャグとジョークで進んでいきます。
いわゆるブラックジョークなのですが、何が暗くて何が明るいか、
人が人として生きていく上で明暗とはいったいなんなのかな、
そんなこんながですね、単行本帯に抱かれたセリフ一つで説明されています。
『命がけの4コマ漫画』
人一人これから死にます、それは自分です。さてどうしましょう。
提示されているのはこのこと一つだけなのですが、
さてそれに対してどうするかというのがこの物語の問いかけでもあり。



20110104233214
星守る犬 村上たかし 双葉社 


ある男の物語。
一家庭人は一家の大黒柱。
治らぬ病で帰らぬ人となるその一部始終を彼の飼い犬が見つめます。
ただそれだけの話です。



20110104232233
さよならも言わずに 上野顕太郎 エンターブレイン ビームコミックス


自分は知らなかったのですがこの上野顕太郎さんはギャグマンガの方です。
彼の奥さんが倒れて帰らぬ人となるまでの、本人の手記。



以上の三作品については今この場で文章にすることはためらわれます。
人が死ぬということは当然のことなのですが、
それでも簡単に言葉にはできないものです。





……でもなー。
えろげでヒロインが死ぬシナリオは売れるしなー。



や、
詳しく言うと日本文化の死生観って諸外国のそれとはけっこう違うものなんですよ?



日本のオタクメディアのいいところは下地に政治と宗教が絡んでいないところだと思います。
これはほんとに。



うん。